■一生懸命の芸人・吉田簑助 ― その4 ―

4.ところが不思議と二人の会話が弾みだしたのだった



 衛星放送の特集でギリシアで強行軍収録したこと。阿古屋の苦心とその重さゆえにできた指の胼胝<たこ>のことなど、近況をいろいろとお話しされる、簑助師匠。
 しかし、これでいいのか? いつもいつも一生懸命すぎてめいっぱいに頑張りすぎではないか?
 いまの文楽を、どうにかしたい気持ちがなみなみと溢れている。文楽ファンを、大事にしたい心が伝わってくる。文楽を、心底愛する情熱が切々としている。
 簑助師匠が、小生意気な女史から視線を外し、焦点を曖昧にしながら遐く遙か彼方のなにものかに語り続けるその姿は、なにかしら感銘的であり、そして感傷的であった。
 その1ヵ月後、吉田簑助は倒れた。
 女史は「働き過ぎなの」と呟いた。「一生懸命やり過ぎなの」とも言った。
 私は、98年の正月公演での八重垣姫の吉田簑助を思い起こした。
 哀しいかな、客の入りが悪くても、一生懸命にただひたすら己の芸に打ち込み、技術と情熱の限りに舞いつづける吉田簑助を思い起こした。ただひたすら一生懸命の芸を披露する「吉田簑助」の恍惚たる表情を、少しばかり酸味の帯びた気持ちで、私は思い起こした。

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2008/02/14 Thu 07:59 | 文楽は遠くなりにけり | トラックバック:0 | コメント:0












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